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東京地方裁判所 昭和37年(レ)754号 判決 1964年1月16日

判   決

東京都品川区南品川三丁目一〇六番地

控訴人

保科正行

右訴訟代理人弁護士

渡辺敏久

同都荒川区荒川二丁目二六番地

被控訴人

石毛重雄

東京都

右代表者知事

東龍太郎

右被控訴人両名訴訟代理人弁護士

木村忠六

右当事者間の昭和三七年(エ)第七五四号損害賠償請求控訴事件について次のとおり判決する。

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人等は、控訴人に対し金八二、二四〇円とこれに対する昭和三七年三月二四日以降右完済に至るまでの年五分の割合の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、「控訴代理人において、本件事故現場は、東京都台東区浅草橋二丁目三番地先道路上である。」と述べ、被控訴人等の後記抗弁事実を否認し、被控訴代理人において、「一、仮りに本件事故について被控訴人石毛に過失があつたとしても、被控訴人東京都は選任監督の義務を尽していたから損害賠償の義務はない二、仮りに被控訴人等に損害賠償の義務があるとしても、本件事故について控訴人に重大な過失があつたから損害額の算定については控訴人の過失をしんしやくすべきである。」と述べた外、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

立証(省略)

理由

一、控訴人主張の日時場所において、控訴人の運転する小型乗用自動車(以下単に控訴車という)に被控訴人石毛重雄の運転する都電が追突し、ついて控訴車がその左側を進行中の訴外小林敬忠の運転する乗用自動車(以上単に訴外車という)に後方から衝突したことは当事者間に争いがない。

二、控訴人は控訴車が右折のため、右折の合図をして都電軌道敷内を十数米進行してから一旦停止し、右折しようとしたところへ、都電が追突したものであつて、本件事故は、被控訴人石毛が前方注視義務を怠り、徐行しないで警笛も鳴らさず進行したため発生したものであると主張し、当審証人(省略)の証言と原審及び当審(第二回)における控訴人の本人尋問の結果は、これと符合するけれども、後記各証拠と対照して俄に信用し難く、却つて原審及び当審における証人(省略)の証言並びに原審及び当審における控訴人石毛の供述によると、訴外小林は時速約四〇粁に近い速度で控訴車の左後方約五米の附近を追随していたところ、控訴車が右に寄つたのでその左側を追い抜いた直後、後方で控訴車と都電が衝突し、殆んど同時に控訴車が訴外車に衝突したこと、控訴車が軌道に寄り始めてから衝突するまでの距離は五、六米位であつたこと、都電は当時約二〇粁の時速で進行していたが、乗客は四、五〇人あり、晴天下であつたとはいえ、直ちに急制動をかけても完全に停車するまでには時間にして七秒、距離にして二〇米の空走をさけえなかつたこと及びしかるにもかかわらず、控訴車が軌道に寄り始めたのは右のように五、六米の至近距離であつたことを認め得るのであつて、右のような事実に(証拠―省略)を総合すると、控訴人が右折するにあたり、後方に対する注意を怠つた結果、後方から接近して進行して来る都電に気付かず、その直前五、六米の地点で後方に対する何らの警戒措置をとることなく、急に右折の態勢に入り、速力を低下したため都電運転車において急制動の措置をとつたが及ばず、本件事故が発生したものであること及びこのような状況下の衝突であつたため控訴車と都電との衝撃は比較的軽く、都電の損傷は塗料が少し剥げた程度であり、控訴人としてはハンドルが握つておれないという程のものでなく、むしろ慌てて左転把したため本件事故に至つたものであることを認めることができる。控訴人の供述中この認定に反する部分は措信しない。

そうしてみると、控訴車で都電道敷に立ち入つた時、都電が直ちに停車したにも拘らず、本件事故を避け得なかつたこと明かであるから、被控訴人石毛が前方注視義務を怠り、道路交通法第二六条所定の車間距離保持の義務に違反したものとは到底認めることができず、むしろ後方から進行する者の一般的な予期に反し、後続車に対する警戒措置をとることなく、急に右折の挙に出た控訴人こそ自動車運転上の過失があつたものというべきである。したがつて、その余の点については判断するまでもなく控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、失当としてこれを棄却すべく、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条及び第九五条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判民事第二七部

裁判長裁判官 小 川 善 吉

裁判官 吉 野   衛

裁判官 茅 沼 英 一

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